その日、私はクライアントから売上分析用のExcelブックを引き継いでいました。10シート。前任者が何年もかけて、必要になるたびに新しいシートを足してきた一冊です。

開いてみるとシート名は「売上」「売上2」「売上_新」「集計」「集計(旧)」のような調子で、どれが現役なのか一見ではわからない。中をのぞけば、シート間を数式リンクで結んでいる箇所と、いつかの時点でコピペして値貼り付けしただけの箇所が混在しています。リンクで生きている数字なのか、もう更新されない置物なのか、外から見ているだけでは区別がつきません。

正直、「これは時間がかかるやつだ」とつぶやいてしまいました😓

引き継ぎシートというのは、いつもこういうものです。残してくれた前任者が悪いわけではありません。日々の業務に追われながら、その場その場で必要な列を足し、シートを増やしていく。気がつけば10シートの迷路になっていて、新しい担当者がそれを解読するところからスタートする。中小企業の現場では、本当によく見る景色です。

「これを初めて見る人に説明して」──Claudeが10シートを読み解いた

このブックを前にして、私はふと思いつきました。Claude in Excelに丸投げしてみたらどうだろう、と。

ブックを開いた状態でClaudeのサイドパネルを出し、こう打ち込みました。「これを初めて見る人に説明して」。たったそれだけ。シート名も、構造の前提も、何ひとつ伝えていません。

返ってきたのは、10シートぶんの読み解きでした。「このブックは月次の売上を集計する構造になっていて、入力はAシートで行われ、Bシートで部門別に再集計され、Cシートで前年比較に使われています」というような、システム全体の地図です。そのうえで「Dシートは過去の集計結果を値貼り付けで保持しているため、現在のリンク経路からは切り離されています」とまで指摘してきました。

これには思わず、声が出ました。「苦労がなくなるね。Claudeが読んで教えてくれるんだから!」

さらに踏み込みたくなって、気になるセルを範囲選択してから「このセルは何をしているか」と聞いてみました。すると、そのセルの計算式の意味だけでなく、「この値は〇〇シートのE12から参照されたものを、さらに△△シートで加工した結果です」と、参照チェーンを日本語でたどってくれます。

何が違うのか。Excelの「参照元トレース」とClaudeの差

これまでも、セルの出どころを追う機能はExcelに備わっていました。Ctrl+[(参照元へジャンプ)や「数式」タブの参照元トレース。私もずっと使ってきた機能です。

ただ、これらはあくまで「一段ずつ手動でたどる」ためのものなのですよね。あるセルの参照元へ飛び、そこからまた参照元へ飛び、シートをまたぎながら頭の中で経路を組み立てていく。10シートの迷路を相手にすると、途中で何を追っていたか自分でも忘れてしまいます。

Claudeが違うのは、ブック全体をひとつのシステムとして読んでくれるところです。「このセルは、〇〇シートのE12にある手入力値を起点に、△△シートで税抜換算された後、このシートで月別合計に組み込まれた値です」と、経路を一度に日本語で返してくれる。Ctrl+[を10回押した結果を、一文にまとめてくれるイメージです。

ひとつ、使いながら覚えたテクニックを共有します。「値ではなく数式で入力して」と追加で指示すると、Claudeの回答結果をそのままセルに数式として落とし込めます。後から自分の目で検証できる状態で残せるので、丸投げしっぱなしにせず、納得しながら引き継ぐことができます。

引き継ぎ作業の正体は、結局のところ「他人が書いた構造を読む」ことです。コードレビューに近い仕事を、Excelという別の言語でやっているにすぎません。それを日本語で要約してくれる相棒がいるのは、現場目線では本当に大きな差だと感じています。

まず「これを初めて見る人に説明して」と話しかけてみてほしい

もし、あなたの手元にも引き継ぎ途中で止まっているExcelブックがあるなら、ぜひ一度Claude in Excelに丸投げしてみてください。シート名を整理する必要も、構造を説明する必要もありません。「これを初めて見る人に説明して」とだけ打ち込めば十分です。

引き継ぎブックがなくても大丈夫です。自分が昔つくって、今となっては中身を忘れかけている古いシートでも構いません。半年前の自分は、もはや他人です。その他人が書いた迷路を、Claudeに読み解いてもらってください。

私自身、これからは引き継ぎ作業の最初の一手をClaudeに任せることに決めました。10シートの謎が一言で解けるなら、使わない理由がありません。


ExcelとAI の記事はこちらにまとめています。